「SOMOS」

わらの家とキューバと沖縄を一つにした宿「SOMOS」

「SOMOS(ソモス)」の建物には、秘密がある。それは、特に隠されているわけでもなく、誰にでも見えるところに堂々とあるのだけれど、多くの人はたぶん気づかない。その秘密からじんわりとにじみ出ている心地良さを、うっすらと感じることはあっても。

「とにかく建物の角を丸くすることしか頭にありませんでした。宿を建てたときに一番やりたかったことがそれだったから、それをやらないと建てる意味がないと思っていました」


 本島北部ののどかな村に2年前にオープンしたSOMOSのオーナー、伊藤秀樹さんが、角が丸くなった宿のオレンジベージュ色の外壁をさすりながら話す。


 「トンカチでたたいたり、サンダー(研磨工具)で削ったりして建物の角を取るのは本当に大変でした。ぐゎーっとすごい粉じんが出るし、しかも屋根の高さまで全部削ったから」


 そう、伊藤さんは、地元の建設会社がせっかくきれいに仕上げた建物の角という角をトンカチとサンダーで削り落として丸くした。


 「ぜんぜん気づかれないでしょうね。でもぱっと見たときの柔らかさはあるのかな」


 “角の取れた”建物と同じ、力みや緊張感をみじんも感じさせない、ゆるりとした語り口で伊藤さんが言う。


 できたばかりの壁を傷つけてまで、なぜ伊藤さんは建物を「柔らかく」したかったのだろう。


 「ストローベイルハウスというのをご存じですか。わらを圧縮したブロックを積んで壁にして、表面に土や漆喰(しっくい)を塗った建物です」


 伊藤さんは最初、「まあるい雰囲気がすごく柔らかい」ストローベイルハウスの工法で宿を建てるつもりだった。しかし、湿気の高い沖縄で“わらの家”を建てる決心がつかなかった。


 「カビだらけになると思ってあきらめました。でも、せめて見た目だけはストローベイルっぽくしたくて角を丸くしたんです」


 昔から、伊藤さんはカチッとしたものが苦手なところがあった。高校を卒業してアメリカに渡ったのも、服装や髪形が「こうじゃなきゃだめ」と決められていた規律だらけの高校生活に息苦しさを感じたことが大きかった。


 「日本を窮屈に感じていたのかな」


 海外にいる方が「気分が楽だった」から、3年間を過ごしたアメリカ以外にも、インド、メキシコ、コスタリカ、キューバといろんな国を旅した。日本にいるのは、旅から戻り次の旅に出るまでの半年ぐらい。その間に猛烈にアルバイトをして旅費を稼いだ。


 「バイトは20種類以上しました。ニセの木目を紙でつくる会社の夜勤とか、工場でひたすら鉄に穴を開ける仕事とか、えり好みせずに何でも」


 旅した国で一番夢中になったのは、「古い建物や古い車など、古いものは何でも好き」な伊藤さんの感性に合うキューバだった。


 「崩れかかったような植民地時代の建物を見るのも好きだったし、人も、さまざまな人種が自然に融け合っていてすごく新鮮だった」


 妻のアイレンさんと出会ったのもキューバだ。ある日ハバナの海岸通りを歩いていた伊藤さんは、道端にちょこんと座っていたアイレンさんの可憐(かれん)な姿に惹(ひ)き付けられた。


 「あ、かわいいなーと思って、声をかけました。一度は通り過ぎたけど、やっぱり話しかけようと思って引き返して」


 結婚を機に、伊藤さんは本腰を入れて働くことにした。何をしようかと考えたときに、旅好きの自分に「しっくり来る」のは宿の経営だった。最初は、キューバでと考えたが、「3万円の売り上げがあったら2万円は政府に持っていかれる」ようなキューバの実情を考えるととても無理に思えた。


 アイレンさんと一緒に日本に戻った伊藤さんは、沖縄にペンションの管理人の仕事を見つけて移り住んだ。沖縄が特に好きなわけではなかったが、暮らすうちに気持ちが変化していった。


 「どんどん沖縄が好きになっていきました。すごく住みやすいし、なんか楽だし」


 この地で宿をやってみよう、と2人は決めた。それからというもの、不動産情報誌を丸ごと覚えてしまうぐらい、物件を見てまわった。しかし、3年まわっても良い所が見つからなかった。「もう探すのも嫌になって来た」と思い始めたとき、牧草地だったこの土地の前を通りかかった。


 「『ここ、いいな』と思って持ち主のおじいちゃんを探して連絡を取ったら、『どんだけでも売るよー』と言ってくれて、その日のうちにすんなり決まりました。おじいちゃん、それまでは誰が来ても売らなかったらしいんだけど」


 宿の建設は、そうすんなりとは行かなかった。消費税増税前の駆け込み需要で、設計士も施工業者も皆、手いっぱい。しびれを切らした伊藤さんは、それなら仕方ない、と自分で設計をすることにした。


 「自分がやらなきゃ誰がやるの、みたいな感じだったから。僕が進めていかないといつまで経っても進まないから」


 半年かかって、キューバの建物のように天井が高くて、ストローベイルハウスのように丸みを帯びた宿の設計図を仕上げた。


 「ストローベイルとキューバの建築を合体させて、沖縄だから赤瓦も使って、こんなかたちになりました」


 異なるスタイルが、インテリアが好きという夫妻の手で驚くほどハイセンスにブレンドされた宿は、SOMOSと名づけられた。


 「スペイン語で『We are』という意味です。人類みな兄弟的な意味を込めて……」


 伊藤さんが説明を始めると、それまで横で話を聞いていたアイレンさんが流暢(りゅうちょう)な日本語でこう言った。


 「『Somos uno.(unoは“一つ”)』。ほんとの意味はそれ。あたしたちのイメージは、そんな感じ。みんなは一緒、みんなまとめて一人で、みんなつながっている」


 わらの家とキューバと沖縄が美しく一つに「合体」した建物と、「完璧を目指そうとしない」というオーナー夫妻の自然体の接客が心地良いSOMOS。オープンからの2年で4回泊まりに来た人もいるほどリピーターが多く、イベントを開けば地元の人たちでにぎわうその宿は、少しずつ、「みんな」とつながりつつある。


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SOMOS

沖縄県今帰仁村兼次271-1

0980-56-1266


(文・写真 馬渕和香 / 朝日新聞デジタル「&TRAVEL」)

なんか分からないけど、泊まりに行きたいさ〜アハハハ

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